音楽制作で登場するケーブルの全種類
スタジオ・宅録環境ではさまざまな規格のケーブルが混在します。それぞれの役割と接続先を正しく理解しておかないと、間違ったケーブルで接続して機材を傷めることもあります。
バランス接続とアンバランス接続
音声ケーブルには「バランス(平衡)」と「アンバランス(不平衡)」の2つの接続方式があります。XLRがなぜプロ現場で標準なのかは、この仕組みを知ると明快です。

アンバランス接続
TS(2極)シールドケーブルが典型例です。HOT線とGND(外被シールド)の2線で信号を送ります。途中で電磁誘導によりノイズが乗ると、受け側では信号とノイズを区別できず、そのまま出力に混入します。短距離では問題になりにくいですが、長距離ほど劣化します。
バランス接続
XLR・TRS(3極)が使います。信号をHOT(+)正相とCOLD(−)逆相の2本の線で送ります。外来ノイズは電磁誘導によって両線に同じ位相で乗ります。受け側の差動増幅器がCOLDの位相を反転してHOTと合算します。
- 信号: (Signal + N) + (Signal − N) = 2 × Signal(2倍に増幅)
- ノイズ: (+N) + (−N) = 0(打ち消しあい)
この仕組みをコモンモード除去(CMR)と呼びます。コンサートホール・放送局で数十メートルのXLRを使っても問題ない理由がここにあります。
XLRケーブル(バランスケーブル)
最もスタジオで重要なケーブルです。3ピンの丸型コネクタが特徴で、マイクとオーディオインターフェース・ミキサーを接続するために使います。
バランス接続の仕組み: 信号を正相と逆相の2本で送り、受け側で差分をとることでノイズをキャンセルします。長距離引き回しでもノイズが乗りにくい構造です。
コネクタの種類:
- XLR-M(オス): マイク側
- XLR-F(メス): オーディオIF・ミキサー側
選び方のポイント:
- 長さ: 宅録なら1〜3m、ステージなら5〜10m
- 品質: Neutrik製コネクタが業界標準。安価な製品はコネクタ部分の品質差が大きい
シールドケーブル(TS / TRS)
フォーン端子(6.3mm / 3.5mm)を使うケーブルです。用途によってTS(アンバランス)とTRS(バランス)に分かれます。
| 種類 | 端子構造 | 主な用途 |
|---|---|---|
| TS(ティップ・スリーブ) | 2極 | ギター・ベース → アンプ・オーディオIF |
| TRS(ティップ・リング・スリーブ) | 3極 | ライン機器間のバランス接続 / ヘッドフォン |
ギター・ベース用シールドはTSが正しい選択です。TRSは3極のため、ギターに接続すると音が変わったり機材を傷める場合があります。
長さとノイズの関係: TS(アンバランス)ケーブルは長くなるほどノイズを拾いやすくなります。ギター〜アンプ間は6m以内が目安です。
INSERTケーブル(Y字 TRS / TS)
ミキサーやオーディオインターフェースのINSERT端子を使って、コンプレッサー・ゲートなど外部エフェクトを録音チェーンに割り込ませるためのケーブルです。
構造: TRSプラグ1本(ステレオフォーン)が、途中でTS2本(SEND・RETURN)に分かれるY字形状。
[機材のINSERT端子] ─TRS─ Y字 ─TS─ [コンプのIN]
└TS─ [コンプのOUT]
TIPがSEND(IF → コンプ)、RINGがRETURN(コンプ → IF)です。接続前に必ずマニュアルで確認してください。
スピーカーケーブル
パワーアンプ → パッシブスピーカーを接続するケーブルです。シールドケーブルとは異なり、シールド構造(ノイズ遮蔽)を持たない単純な2芯ケーブルです。
コネクタの種類:
- スピコン(Speakon): Neutrik製。ロック機構があり、ライブステージで標準
- フォーン(TS): コンシューマー機器に多い
- バナナプラグ: HiFiオーディオ向け
重要: スピーカーケーブルをシールドケーブルの代わりに使う(またはその逆)と機材を損傷する可能性があります。用途を間違えないよう注意が必要です。
マルチケーブル(スネークケーブル)
ライブPA・ステージ設営で欠かせないケーブルです。複数のXLR信号を1本にまとめて長距離伝送できる多芯ケーブルで、ステージ上のマイクをミキサーまで引き回す用途が中心です。
チャンネル数の規格:
| ch数 | 主な用途 |
|---|---|
| 8ch | 小規模ライブ・イベント |
| 16ch | 中規模ライブハウス(標準) |
| 24ch | 大型ライブハウス・ホール |
| 32ch以上 | コンサートホール・大規模PA |
1本のマルチケーブルにはSEND(ステージ→ミキサー方向)とRETURN(ミキサー→ステージ方向)の両方が収まっています。たとえば「送り16ch+返し8ch=24芯」という構成が一般的です。
ステージ端のマルチボックス(ステージボックス)にXLRを集約し、1本のスネークケーブルで卓(ミキサー)側まで引きます。主ミキサー(FOH)への送りと、モニターミキサーへの返しを同時に処理するのが実際の現場の使い方です。

返し(モニター)とは: 演奏者が自分の演奏を耳元で聞くために、ステージ前方に置かれるスピーカー(転がし)のことです。モニターミキサーはステージ袖に置かれ、各演奏者の要望に合わせたミックスをRETURN経由でステージに返します。FOHミキサーは客席後方に配置され、客席への出音を担当します。この2系統のルーティングを1本のマルチケーブルが担います。
USBケーブル(USB-A / USB-B / USB-C)
オーディオインターフェース・MIDIキーボードなど多くの機材がUSB接続に対応しています。
| コネクタ型 | 主な用途 |
|---|---|
| USB-B(四角) | 旧世代オーディオIF(Focusrite Scarlett 2世代以前等) |
| USB-C | 最新オーディオIF(Focusrite Scarlett 4th Gen・MOTU M2等) |
| USB-A → USB-C | PC側USB-A、機材側USB-Cの接続 |
注意事項:
- 付属ケーブルはデータ転送非対応(充電専用)の場合があります。データ転送対応のUSBケーブルを使ってください。
- USBハブ経由の接続はノイズや電力不足の原因になるため、PCのUSBポートに直接接続することを推奨します。
Thunderboltケーブル(Thunderbolt 3 / 4)
MacとThunderbolt対応オーディオインターフェースを接続する高速ケーブルです。USBに比べてレイテンシーが低く、帯域幅が広い点が特徴です。
対応機材例: Universal Audio Apollo / MOTU 828es など上位モデルに多い
コネクタ外観はUSB-Cと同じですが、ケーブル内部に専用チップが入っており、Thunderboltポートにのみ接続できます(USB-Cポートへの接続は動作保証外)。
デジタル転送ケーブル(S/PDIF・ADAT・AES/EBU・MIDI)
| 規格 | 物理ケーブル | 用途 |
|---|---|---|
| S/PDIF | 同軸(RCA)または光ファイバー | IF間のデジタル音声転送 |
| ADAT | 光ファイバー(TOSLink) | 8ch同時デジタル転送(IF拡張に使う) |
| AES/EBU | XLRケーブル(プロ用) | 業務用機器間のデジタル音声 |
| MIDI(DIN 5ピン) | 専用5ピンDINケーブル | 旧式MIDIシンセ・機器の接続 |
ADATはオーディオインターフェースの入力数を拡張するときに重要です(例:8ch IFに外部プリアンプをADAT経由で接続して16ch化)。
通常ケーブルと高品位ケーブルの違い
「ケーブルで音は変わるのか?」は音楽制作の世界でよく議論される話題です。正直にお伝えします。
音質の差: ブラインドテストでの聞き分けは極めて困難です。高品位ケーブルが優れているのは主に耐久性・ノイズ耐性・接触信頼性の点であり、「音が劇的によくなる」と期待するのは現実的ではありません。
それでも高品位ケーブルを選ぶ理由:
- スタジオ機材は長期間使うため、ケーブルの断線・接触不良による録音トラブルのリスクを下げる
- コネクタ部分の精度が高く、差し込み・抜き差しの回数に強い
- 特にXLRケーブルはスタジオでのヘビーユースが前提のため、Neutrikコネクタ採用モデルを推奨
定番ブランド
| ブランド | 特徴 | 価格帯 |
|---|---|---|
| MOGAMI | 日本製。放送・スタジオ御用達の最高峰 | ¥5,000〜 |
| CANARE | 日本製。コストパフォーマンスに優れる。プロ現場でも広く使用 | ¥3,000〜 |
| Belden | 米国。タフな外被で現場使用に強い | ¥4,000〜 |
| Evidence Audio | ギター向け高品位シールドで評価が高い | ¥10,000〜 |
| Neutrik | コネクタメーカー。業界標準コネクタを製造 | — |
初心者にはCANAREが最初の選択肢としておすすめです。プロクオリティの品質を持ちながら、MOGAMIほど高価ではありません。
まとめ:ケーブル選びのポイント
- XLRケーブル: マイク接続の要。CANAREまたはMOGAMI製で長さ1〜3mを1〜2本用意
- シールド(TS): ギター・ベース用。長さ3〜5m程度
- INSERTケーブル: 外部エフェクトを録音チェーンに入れる際に必要。なければ後から買っても可
- スピーカーケーブル: パッシブスピーカー使用時のみ。アクティブモニターには不要
- USBケーブル: データ転送対応・直挿し必須
- Thunderbolt: 上位IFを使う場合のみ
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