1970年代後期——日本音楽が「世界標準」に追いつく転換点
1970年代後期は、日本のポップミュージックが大きく変容した時代だ。それまでの歌謡曲・フォークの文脈から飛び出し、西洋のロック・ポップス・ジャズを本格的に日本語(と英語)のポップスに落とし込む試みが始まった。
その最大の担い手がゴダイゴだった。
ゴダイゴの成り立ち——バークリーで出会った天才たち
1977年、ゴダイゴが「モンキー・マジック」でデビューした時、日本の音楽シーンに衝撃が走った。英語と日本語を自在に行き来する歌詞、複雑なコード進行、プロフェッショナルなアンサンブル——これは当時の日本のポップスとは明らかに次元が違った。
バークリー音楽大学での出会い
ミッキー吉野は1968年にアメリカのバークリー音楽大学へ留学。当時のバークリーは、ジャズ・フュージョンの本場として世界中から才能ある音楽家が集まる場所だった。彼はここでジャズ理論・アレンジ・作曲を徹底的に学び、日本のポップスとはまったく異なるハーモニー感覚と編曲力を身につけた。
タケカワユキヒデ(ボーカル)もバークリーで学んだ後、英語と日本語の両方で自在に歌える数少ない日本人アーティストとなった。「Monkey Magic」「Gandhara」は英語詞でも日本国内でヒットした最初期の例だ。
ゴダイゴホーンズとして知られるホーンアレンジは、岸本ひろし氏(トランペット)など一流ミュージシャンが参加。本格的なホーン編成は当時の日本のポップバンドでは異例だった。岸本ひろし氏はのちに映画音楽の分野でも活躍し、第29回日本アカデミー賞(2006年授賞式、2005年対象作品)最優秀音楽賞を受賞している。
ゴダイゴはフュージョンバンドではない
重要な区別をしておく。ゴダイゴはフュージョンバンドではない。
ゴダイゴのジャンルはポップ・ロックだ。バークリーで培った音楽理論をポップスの文脈で活用した。「ガンダーラ」「モンキー・マジック」——これらはフュージョンではなく、洗練されたポップサウンドだ。
フュージョン(ジャズ×ロック)の担い手であるカシオペア・T-SQUAREは1980年代後半が全盛期であり、ゴダイゴとは時代的にも音楽的にも異なる(→ #09 フュージョン カシオペア・T-SQUARE)。
「英語×日本語」という新しい文法
ゴダイゴ以前の日本のポップスは基本的に日本語オンリーだった。英語は「カッコいい飾り」として部分的に使われる程度。しかしゴダイゴは英語と日本語を対等に扱い、どちらでも意味が通るダブル・リリックという手法を確立した。
| アーティスト | 手法 | 代表曲 |
|---|---|---|
| ゴダイゴ | 英語詞・日本語詞の両バージョン | Monkey Magic / ガンダーラ |
| オフコース | 英語フレーズを日本語詞に自然に組み込む | さよなら |
| 松任谷由実(ユーミン) | 英語的フレージングを日本語で表現 | ルージュの伝言 |
この「英語×日本語」の文法は、後の小室哲哉・TRF・SPEED、さらには2000年代のEXILE・三代目J Soul Brothersに至るまで継承されている。
西洋音楽理論が変えたアレンジの水準
🎼 バークリー世代が日本に持ち込んだもの
- 拡張コード:7th・9th・maj7など、歌謡曲になかった響きを導入
- 対位法的アレンジ:各楽器が独立したラインを持つ立体的なサウンド
- プロフェッショナルなホーンアレンジ:ビッグバンドのノウハウをポップスに転用
- 英語的リズム感:シンコペーションやアフタービートの自然な使用
これらは1970年代当時の日本の歌謡曲制作者にとって革新的な技術だった。大村雅朗、松任谷正隆らアレンジャーたちはゴダイゴのサウンドに刺激を受け、自らのアレンジに積極的に取り入れていった。
はっぴいえんどとニューミュージックへの接続
ゴダイゴと同時代、はっぴいえんど(細野晴臣・大瀧詠一・松本隆・鈴木茂)は別のアプローチで日本語ロックの可能性を開拓していた。
| グループ | アプローチ | 後の影響 |
|---|---|---|
| ゴダイゴ | バークリー理論×ポップ構造×英日両言語 | J-POP、アニメソング |
| はっぴいえんど | 日本語の語感をロックのリズムに乗せる実験 | シティポップ、ニューミュージック |
この2つの潮流が合流する形で、1980年代のニューミュージック〜シティポップが生まれた。
この時代が後のJ-POPに与えた影響
直接的な影響ライン:
- ゴダイゴの洗練されたアレンジ → 1980年代歌謡ポップスのレベルアップ
- バークリー理論の普及 → スタジオミュージシャンの技術向上
- 英語×日本語の文法 → 小室サウンド・EXILEへの継承
- 高い演奏技術のバンド像 → フュージョンブームの土台(→ #09)